★★★★『息子の部屋』(THE SON'S ROOM)
イタリアの小さな港町。精神分析医のジョバンニ(ナンニ・モレッティ)は、妻のパオラ(ラウラ・モランテ)、娘のイレーネ(ジュアスミン・トリンカ)、息子のアンドレア(ジュゼッペ・サンフェリーチェ)と暮らしていた。
今日も彼は海辺の一人でランニングしていた。ちょっと喫茶店に入ってミルクを飲み、街ゆく人々を眺める。そんな静かな一時。
「今日?何かあったんですか?」電話で学校に呼び出されたジョバンニ。アンドレアが友達のルキアーノと2人で実験室の化石を盗んだというのだ。そして2人がそれを自慢しているのを見たという目撃者までいる。
そんなことがあっても、患者の診察には支障はないが、どうも息子とはどう切り出して良いか戸惑うばかり。パオラやイレーネからは「アンドレアの言葉を信じましょう」と言われるが、心は晴れない。「やったと思ってるの?」とパオラに言われ、「真相を知りたいだけだ」。
翌日、教師、ルキアーノの父とともに、目撃者であるフィリッポを訪ねたジョバンニは、フィリッポが実際には化石を目にしていないことを知り、一安心する。
患者の診察後、息子の部屋を訪ねたジョバンニは、息子の留守に引き出しを開けそうになってやめる。
恋人と勉強しているイレーネ。二人の仲が気になるジョバンニだが、パオラは「娘を信じて」と言われ…
夜、詩集を読んでいるジョバンニ。横で寝ているパオラに詩を朗読。そして、愛し合う2人。
4人でのドライブ。ラジオに合わせて歌い出すジョバンニに2人の子供が、そして妻も一緒に歌い出す。
ジョバンニのテニスの試合。試合に集中できないまま負けたアンドレアに「勝たなきゃ面白くないだろう」とジョバンニは言うが「別に…」。そして、パオラの仕事場を訪ね、「アンドレア変じゃないか?テニスでわざと負けていた。あの年で勝つ気がないなんて、僕は変だと思う」と言うが、妻からは「化石は盗んでないと思うのね」と言われ「ああ」と生返事。
ジョバンニはアンドレアと散歩し、本屋を巡ったり、陸上競技場で高跳びの話をしたり…。翌日、アンドレアがパオラに話す「ママ、化石盗ったの僕とルキアーノなんだ。先生の慌てる顔が見たくて…。戻そうとしたんだけど、落としちゃって直せなくって…。昨日パパに話そうとしたけど、楽しそうで、話せなかった」。
化石盗難事件もなんとか片が付き一安心の休日の朝食。「映画に行こう。どの患者も絶賛さ。ラストも聞かされた」と楽しげなジョバンニだが、誰も乗ってこない。それで友達と約束があるというアンドレアに『一緒に走る』という約束をようやくとりつける。
その時、電話がなる。相手は火曜日に予約を入れている患者。「どうしても気分がふさぐので話を聞いて欲しい」と言われ無視することもできず、アンドレアとの約束を別の日にして、ジョバンニは往診に出かけていく。自殺願望の強い患者が、癌の疑いがあって、それを聞いて欲しかったのだ。
アンドレアは友達とスキューバダイビング、イレーネはバスケットの試合、パオラはフリーマーケット巡り、それぞれの休日を過ごすことになる。
診察を終えて自宅に電話を入れるが誰もいない。そして、家にたどり着くと、ルキアーノの父がアンドレアが潜水中の事故で死亡したことを伝えてくる。ジョバンニはバスケットコートにイレーネを迎えに行く。肩を寄せ合って泣くことしかできない残された家族3人。そして、葬儀…
ベッドで一人泣きじゃくるパオラ。息子を捜すように街を彷徨うジョバンニ。泣いている母を気遣うイレーネ。
ジョバンニは、傷心のまま診察を再開したが、仕事に集中できない。『あの時、往診に行かなければ…』『あの時、一緒に走っていたら…』、そんなことばかりが頭を巡る。CDに耳を傾け、スキューバダイビングの道具のことを聞いてみたり。鬱ぎがちなパオラを外に誘ってみても、ついつい話はアンドレアの死んだ原因について…。
イレーネのバスケットの試合。彼女は、ファールだと言われ審判に、観客に突っかかっていってしまう。そして、4試合の出場停止。
学校の友達がアンドレアのミサを開いてくれる。「全ては神が決められること。理不尽なことも克服しよう。神はいつお呼びになるか分からない」。
しかし、克服できないジョバンニ「綺麗だけど欠けたカップ。全部欠けて割れて。克服しろなんて、むなしい言葉。そんなただの言葉に意味はない。灰皿も欠けている。ポットは割れたけど接着剤で接いだ。この家は壊れている」と、苛立ちを隠すことができない。それに言葉もかけられないパオラ。
イレーナを体育館に迎えに行ったジョバンニ。「ママに言われて来たの?2人で気を遣うのはやめて。もう彼とは別れたわ。学校では会ってるわ。でも、気まずくて。残念ながら、私は寂しくないの」とイレーナに言われる。
3人が3人して気を遣いながらも、それが空回りする日々が続いていた。そんな時、アンドレア宛の手紙が配達される。相手はアリアンナ。去年の夏のキャンプで1日だけ一緒になった女の子だ。『有名人の恋文を真似しようとしたけど、やっぱり自分の言葉でかくことにしたわ。だって、私ほどあなたを愛している人はいないから。去年の夏が忘れられない…』。
「1日しか会ってないのに息子のことを分かっている彼女に、手紙であの件を伝えなくちゃ」と言うが、手紙を書けないジョバンニ。アンドレアと一緒に走らなかった自分を悔やむ気持ちばかりが強くなる。
そして、パオラの方はアリアンナに会ってみたいという気持ちを募らせる。後戻りばかりしているジョバンニと、前に進みたいと思っているアリアンナ。2人の気持ちはすれ違ったまま、ベッドを別にすることになる。
そして、ついにパオラがアリアンナに電話をかける。嗚咽をかみ殺しながら、息子の死を伝えるパオラ。そして、「あなたに会いたいの。学校があるだろうから、会いに行くわ」と言うが、アリアンナからは断られてしまう。
それを機に、ジョバンニは一つの決断をする。「ある患者には無関心で、ある患者にはのめり込んでしまう。もう仕方のないことだ。決めてしまって、少しほっとしている。患者にも皆にも良いはずだ」。そう診療所をたたんでしまったのだ。しかし、このことも家族の絆を取り戻すことにはなりそうになかった。
そんなある日、ジョバンニが家で本を読んでいると、一人の女の子が訪ねてくる。アリアンナだった。あまりのことに戸惑うジョバンニ。「電話したけど、いつも留守なので」と言うアリアンナ。「妻はもう帰ってくる。電話しようか」と言うアリアンナ。ぎこちない会話が続く。そして、アリアンナから「彼の部屋を見てみたい」と申し出がある。ジョバンニの様子に「あっ、部屋みたいなんて大事なことを」と引き下がるアリアンナだが、「私に部屋を見せたいって言って」と数枚の写真を見せる。そこにはジョバンニが知らないアンドレアの笑顔が写っていた。
パオラとイレーナが帰ってきた。「あの子が来ているよ。旅行の途中で君に会いたいって」とジョバンニが自然にパオラに声をかける。抱き合うパオラとアリアンナ。楽しい一時を過ごし、パオラはアリアンナを食事に誘うが、彼女は「友達が外で待っているので」と言う。それでヒッチハイク中だという彼女とボーイフレンドのステファノを乗せて、ジョバンニが運転する車で皆で高速道路のターミナルまで送って行くことになる。「父は反対したけど、母は電話すれば良いって言ってくれて…」とアリアンナ。
そして、ターミナル。ヒッチハイクさせてくれる車を探す2人を、家族3人でターミナルから眺める。離れがたい家族は、「次の分岐まで行こう」とさらに2人を誘って車を走らせる。いつしか、2人とイレーナは寝てしまう。目的にターミナル。「よく寝てる。起こせないな。ここまで来たんだ。君は寝るなよ」と言うジョバンニに微笑むパオラ。
夜通し走った車が止まった時、そこは海辺だった。2人降りて海を眺める夫婦。「ここはどこ?」とイレーナが起きてくる。「今夜、停止以来、初の試合なのよ」と言うイレーナに笑う夫婦。そして、起きてきたアリアンナとステファノ。その様子を見ながら、話をするジョバンニ。「良い子だね。彼も良い子だ、優しいし。同じ学校の年上って話だね。ねえ、パオラ。2人はつき合っているのかな」と言ってみて、妻の顔を見て「イヤ、言わないで良いよ」と言う。
そして、2人をバスに乗せる。「着いたら手紙を書きます。ボン・ボヤージュ」。出て行くバスを見送る3人。そして、3人は、海岸を思い思いで、それでいてつかず離れずに歩いていく。ちょっと話が散文的になったけど、ずっと繋がっている心。事件があれば「真相を知りたい」と思い、確かめずにはいられない父が、息子の死に直面した時、出るはずのない答えを探し続け、そのことが仕事を、そして家族を壊していってしまう。
そんな時にやってきた息子の恋人。彼女との出会いが壊れ欠けた家族を再び修復…いや成長させてくれる。そんな映画である。
精神科医の父親と患者とのやりとり、そして診療所を閉める時の別れの儀式。そんなものも父親の気持ちとシンクロするようで楽しめる作品だった。
なんとも言えず良い映画だった。2002/1/19 ファボーレ東宝(富山)