鏡獅子(春興鏡獅子)   樵唄牧笛の声 人間万事さまざまに   世を渡り行くその中に 世の恋草を余所に見て   我れは下萌えくむ春風に 花の東の宮仕え   忍ぶ便りも長廊下   されば結ぶのその神や あまの浮橋渡りそめ   女神 男神の二柱   恋の根笹の伊勢海士小船 川崎音頭口々に   人の心の花の露 濡れにぞ濡れし鬢水の   はたち 鬘の堅意地も 道理御殿の勤めじゃと   人に謡われ結い立ての櫛の歯にまでかけられし   平元結の高髷も 痒いところへ平打の   届かぬ人につながれて 人目の関のわかれ坂   春は花見に 心うつりて山里の   谷の川音雨とのみ 聞こえて松の風   実に過って半日の客たりしも今身の上に白雲の   その折過ぎて花も散り 青葉茂るや夏木立   飛弾の踊りはおもしろや   早乙女がござれば 苗代水や五月雨   初の人にも馴染むはお茶よ ほんにさ   恨みかこつもな 実からしんぞ   気にあたろとは 夢々知らなんだ   見るたび見るたびや聞く度に   憎てらしいほど可愛ゆさの 朧月夜や時鳥   時しも今は牡丹の花 咲くや乱れて   散るは散るは 散り来るは散り来るは   散り来るは ちりちり散りかかるようで   面白うて寝られぬ   花見てあかそ花見てあかそ   花には憂きをも打ち忘れ   咲き乱れたる風に香のある花の波   来つれて連れて顔は紅白薄紅さいて   見するは見するは丁度廿日草   牡丹に戯れ獅子の曲 実に石橋の有さまは   その面僅かにして苔滑らかに谷深く   下は泥犁も白波の 音は嵐に響き合い   笙歌の花降り簫笛琴箜篌 夕日の雲に聞ゆべき   目前の奇特あらたなり (胡蝶)   世の中に 絶えて花香のなかりせば我は何処に   宿るべき 浮世を知らで草に寝て 花に遊びて   明日には露を情の袖枕 羽色にまがう物とては   我に由縁の深見草 花のおだまき   花のおだまき繰り返し 風に柳の結ぶや糸の   吹かぬその間が命じゃ物を   憎やつれなやその味さえも   忘れ兼つつ飛び交う中を   ぞっとそよいで隔つるは科戸の神のねたみかや   よしや吉野の花より我は羽風にこぼす白粉の   その面影のいとしさに   いとど思いはます鏡 うつる心や紫の   色にいでたか恥ずかしながら   待つにかいなき松風の 花に薪を吹添えて   雪を運ぶか朧げの我も迷うや 花の影   暫し木影に休らいぬ   「大薩摩」   それ清涼山の石橋は人の渡せる橋ならず                       法の功徳に自ずから出現なしたる橋なれば   (暫く待たせたまえや 影向の時節も今幾程に    よも過ぎじ)   牡丹の花に舞い遊ぶ   葉影に休む蝶の 風に翼かわして飛びめぐる   獅子は勇んでくるくくと   花に戯れ枝に臥し転び   実にも上なき獅子王の勢い   獅子の座にこそ直りけれ