★★★『リプリー』(THE TALENTED MR. RIPLEY)
全ては、借り物の一着のジャケットから始まった。
1958年、ニューヨーク。上流階級が集うガーデン・パーティで、トム・リプリー(マット・デイモン)は、造船業界の大物ハーバート・グリーンリーフ(ジェイムズ・レブホーン)と出会った。ピアノの伴奏に雇われたトムが着ていたのが、プリンストン大学のエンブレム付きジャケット。これに目を留めたグリーンリーフが「56年卒なら息子のディッキーと同じだ」と声をかけてきたのだ。実はこのジャケットは借り物で、トム自身は雑多なバイトで食いつなぐ生活を送っていたのだが、真実を口にするのもはばかられ、とっさにディッキーが知り合いであるかのように装ってしまう。そんなトムにグリーンリーフが申し出る「イタリアに行ったまま戻らないディッキーを連れ戻してほしい。報酬は1000$」。この時、ディッキーがモダンジャズ・ファンだと知ったトムは調子を合わせられるようにレコードを聴き漁って知識を仕入れ、一等船室の乗客となる。
船は無事ナポリへ。出入国審査の時に、アメリカ名家の令嬢メレディス(ケイト・ブランシェット)と知り合ったトムは出来心から自分がディッキー・グリーンリーフだと名乗る。
ディッキー(ジュード・ロウ)はパリで出会った作家の卵マージ(グウィネス・パルトロウ)とモンジベロの海を見下ろす邸宅で優雅な同棲生活を送っていた。ビーチでくつろぐ彼らに偶然を装って近づくトム。マージから昼食への招待を受けた彼は早速二人の家を訪ね、自分がイタリアに来た真の目的を明かした。帰国を強要されたと知ったディッキーはあからさまに迷惑そうな顔をしてトムを追い返そうとする。別れの日にわざと解れた鞄にジャズのレコードを入れて現れたトムが鞄を壊して(レコードを見せて)しまった途端、ディッキーは態度を一変し、トムをいきつけのジャズ・クラブに誘う。
ステージに飛び入りして陽気にはしゃぐディッキーと、それに見とれるトム。自分の思うままに生き、横柄な態度さえも魅力に感じられるディッキーの全てが、トムにはたまらなく眩しく輝いて見えたのだった。それゆえ、アメリカに戻らずに経費を使ってしまえと言うディッキーの誘いに、トムは一も二もなく従うのだった。
セイリングを楽しみ、ベニス旅行やコルティナでのスキーの計画に思いをはせる日々。イタリアの太陽の下、トムは惨めな現実を忘れさせてくれる夢の生活に酔いしれていた。
しかし、彼とディッキーは所詮違う世界の住人だった。ディッキーに連れられて初めて出かけたローマでトムは、旧友フレディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と遊びに出かけるディッキーに邪魔者扱いされる屈辱を味わう。そのままモンジベロまでやってきたフレディにディッキーのお気に入りの座を奪われたトムは、傷心を慰めてくれたマージからコルティナのスキー計画からも外された事を知らされる。「ディッキーは、新しい人と出会うといつもそうなの。気に入っている間だけは大切にしてくれるけど、飽きると忘れられてしまう」。
そんなトムとディッキーの関係に変化が生じたのはモンジベロの聖女の祭りの日。聖女の像の行進の後、ぽっかりと浮かぶ水死体。それがディッキーの秘密の愛人であることを知っているトムは、動揺するディッキーから、妊娠した彼女を見捨てたという告白を引き出す。これでトムはディッキーとの間にマージすら入り込めない固い絆を得たと感じるのだった。
しかし、ディッキーにとってトムはあくまでも、父の金庫と結ばれた金蔓にすぎなかった。父親からトム宛に解任を申し渡す手紙が届いた時、ディッキーはサンレモへの小旅行を最後に別行動を取ろうと言い出す。
素直にサンレモへ同行したトムは、ボートで沖合にでたときに、「年が明けたら自分の金でイタリアに戻ってくる。だからローマで一緒に部屋を借りよう」と計画をうち明ける。しかし、ディッキーは冷酷に「無理だ!」とはねつける。そして、自分がマージと結婚すること、トムにまとわりつかれて迷惑だったことをあけすけにぶちまける。たまらずオールでディッキーを殴るトム。自分の不始末に気づいて手当てしようとするトムに激昂したディッキーが襲いかかる。喉をしめられ殺されかけたとき、再びトムは手にしたオールを振りかざす。「やめてくれ!」と叫びながら振り下ろすオール。気づいたときには目の前に血にまみれた最愛の人の骸が…
死体とボートを海に沈めたトムは、ホテルのフロントがメガネをかけていない自分をディッキーと勘違いしたことからある計画を思いつく。自分がディッキーになりすますのだ。一旦モンジベロへ戻った彼はディッキーから預かったと言ってマージに香水と一緒に別れの手紙を渡す。さらにローマへ出向き、ディッキーと自分が別々のホテルに宿泊していると見せかける工作を施す。
そんな時、トムは偶然メレディスと再開する。彼女からオペラに誘われた彼は幕間で最も合いたくない人物と鉢合わせしてしまう。ディッキーの真意を正すためにローマにやってきていたマージである。さらに彼女をエスコートするピーター(ジャク・ダベンポート)がメレディスと知り合いだったことから、1人2役が発覚しそうになるトム。そのピンチを切り抜けたと思ったのも束の間、ディッキー名義で借りたアパートに、不審を抱いたフレディが訪ねてくる。
ディッキーのような振る舞いが板についてきたトムと、ディッキーらしからぬ悪趣味なちょうどに埋もれた家をいぶかるフレディ。そして一旦帰りかけたのだが、大家がトムをデッキーと呼ぶのを知り詰め寄るフレディ。トムは大事にしていた胸像でフレディをも死へと追いやるのだった。
フレディの死体が発見されたことから、警察の疑惑の目はディッキーへと向かう。そして、それを心配するマージがアパートにまで訪ねて来るに至って、ついにトムはアパートを放棄することを決意する。ディッキーの名前で自殺をほのめかす手紙を書いたトムは警察の目をかいくぐり、ピーターの元を訪ねる。トムの来訪を喜ぶピーター。いつしか2人は…
ディッキーによるフレディ殺しが信じられないマージはトムの部屋でディッキーの指輪を発見。トムにくってかかるが、ディッキーの父親のやとった私立探偵の調査でもディッキー黒説が明確になったことから、トムは幾ばくかのお金を得て、新たにピーターとの暮らしを始めることとなる。
ピーターの演奏旅行に同行したトムは、船の上で再びメレディスと出会ってしまい、ディッキーの名をかたってしまうのだった。そして…自分とは何者なのか、人の生活を羨ましく思うあまりにいつしか自分が自分でなくなってしまう。トムも最後には自分が何者なのか解らなくなってしまっている。人は仮面(ペルソナ)を被って生活をしていると言うが、気づけばトムは自分の仮面ではなく、ディッキーの仮面が剥がれなくなってしまっていたのだろう。借り物のジャケットが借り物の人生を産んでしまった、あまりに悲劇的なお話である。
なお、この映画は、「太陽がいっぱい」のリメイクとしてよりは、やはり「リプリー」というタイトルの新作として観た方がきっと良いだろうなと思う。だって、「太陽がいっぱい」では、ドロンをはじめ美男美女がそろっていたこともあるし…2000/7/29(土) WMC高岡